法律のいろは

遺留分侵害額請求を受けた場合に,複数侵害する贈与や遺贈などがある場合に,どう考えればいいのでしょうか?

2021年5月1日 更新 

 法改正により,遺留分侵害の問題がお金の支払いの話になることの話は別のコラムで触れました。侵害の計算をするにあたっての話の一部分も法改正により整理されています。お金の支払いについては裁判所での解決の際には,支払いがすぐに難しい方のために裁判所の裁量で支払い時期を設ける(期限を延期する)ことができるようになりました。そもそも,遺言による遺贈や生前の死因贈与契約・生前の贈与契約が存在する場合に,遺留分の侵害を複数のものがしている場合にどう調整を考えていくのでしょうか?

 

 遺留分侵害の計算式は他のコラムで詳しく触れていますので,ここでは簡単におさらいしておきます。遺留分の対象となる財産の範囲から遺留分を計算します。その後,遺留分を持っている方が既に生前贈与などで受け取った金額・遺産分割で取得する財産の金額・負担する亡くなった方の負債の金額を計算して,遺留分の侵害があるのかどうかを確定します。遺留分の対象となる財産の範囲は,特に相続人に対する生前贈与の金額が法改正前と異なる可能性が出てきています。

 

 遺留分の侵害を行っている生前贈与や遺贈が存在する場合の対応は法改正の前後で変動はありません。遺言による贈与(遺贈)が存在する場合には,こちらから遺留分侵害額請求の対象となります。生前贈与については,相続開始に近い時期のものから順に遺留分侵害額請求の対象となります。遺留分侵害額請求の対象となる部分は,侵害をしている方自身が遺留分の権利を持つ場合(配偶者・子供などの相続人)には,その方の遺留分を超えている範囲でかつ・遺留分の計算の対象となる生前贈与や遺贈の金額の範囲内になります。例えば,相続人に対する10年を超えた前の生前贈与で遺留分侵害が生じる蓋然性が高いことの認識がない場合には,そもそも遺留分の計算の対象になりません。こうしたものは計算の対象からも外れるので,侵害の有無を考慮する対象にもならないことになります。遺留分侵害について公平の観点から,金銭請求が認められているため,侵害額請求を認めると侵害額請求をされた側に侵害が出ているのは本末転倒になります。そのため,遺留分超過の金額が上限になります。

 

 同順位のもの(例えば,複数の方に遺言で贈与(遺贈)していて,双方とも遺留分侵害をしている場合)については,遺贈あるいは贈与された財産の金額に応じて負担するのが原則になります。こちらについては,遺言で示した意思が優先されますので,遺言で何かしらの財産を贈与する場合には,金銭面の負担も考えて調整を行うことがある程度は可能になります。

 

 遺留分侵害額請求を行うことができるのは,自らの遺留分侵害を受けている状況が存在する限りです。先に遺留分侵害額請求を受ける方について請求を行えば侵害状況が解消できるのであれば,後の順位の方に侵害額請求を行うことはできなくなります。生前に行う贈与契約で,贈与をする方が亡くなることで効力を生じる死因贈与契約というものが存在します。こちらをどう扱うかは法律上の規定が法改正後も存在しません。一部裁判例(高等裁判所の判断)では,遺贈の次,生前贈与の前になると判断するものが存在します。法律上は,可能な限り遺贈の規定を用いるとされているので,遺贈と同じ順位で考えるという考え方もありえます。ここをどう考えるのかは確定はしていません。

 

 遺留分侵害の計算に関しては,判例タイムス1345号で示されているエクセルを用いた遺留分計算シートというものが存在しています。こちらは,令和3年3月時点で法改正前のものとのことで,今後改訂される可能性があります。こちらについても改定の動きを見つつ活用が注目されるところです。

 なお,令和1年6月までに生じた相続に関しては,遺留分減殺請求(改正前の法律)が適用されます。改正の前後で取り扱いが大きく異なる部分もありえます。通常遺言その他はいわゆる49日の時などに明らかにされることもありますので,時効との関係でこのコラム記載時点(令和3年5月1日時点)でどこまで,改正前に生じた相続に基づく遺留分減殺請求が行うことができるのかという問題もありえます。いずれにしても,改正の前の法律か後の内容になるのかは注意が必要です。

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